フジサルの戦術メモ

サッカー,フットサルの戦術論,哲学について僕の理論を喋ります

ポジショナルプレーにおける質的優位を活かす方法

この記事では10月15日(日)に行われた名古屋グランパスvs湘南ベルマーレで、質的優位を活かすことについてとてもわかりやすいシーンがあったので、それを採り上げて話を進めていきます。

 

まず大前提として、説明しておきたいことがあります。例えば「イブラヒモビッチは身長が高くて、点が獲れるからCFに置きました!」というのは質的優位を活かすことではありません。質的優位を活かすというのは、相手の短所、自分たちの長所、選手それぞれの個性を役割別に噛み合わせたうえで配置し、質的に相手を上回ることで優位性を得るということです。

 

そして、その質的優位性を活かしたのが、このゴールシーン。このゴールシーンはボレーが派手なだけに見落としがちですが、これは明らかに戦術的狙いによって生み出されたゴールで、このゴールは「シモビッチの体格が~」「相手の対応が~」という話で終わらせてはいけないシーンですので、是非、見ていただきたいです。

 

そのゴールシーンがこちら。

簡単な解説をすると、左サイドで基点をつくりクロス。そして、そのクロスをロビン シモビッチが胸トラップからボレーというシーンです。

 

では、ここから本題に入っていこうと思います。

意図的に生み出された左サイドのスペース

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まず、センターからハーフスペースに侵入してきた選手が、相手選手の中央で受けます。その中央で受けたことによって相手選手の重心と視線はボールホルダーに向くことになります。

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そして、これは相手選手の中央で受けた選手が相手の視線を集め、一度左サイドに預けたシーンです。先ほどのシーンで相手の視線を引き付けたおかげで、相手を押し込むことに成功し、中央に大きなスペースが生まれました。

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これは、先ほど空いたスペースをガブリエル シャビエルを経由して使うというシーンです。このシーンでは、相手はスペースを利用されたくないので、それを埋めるためにパスのルートに沿って守備組織をスライドさせます。これはゾーンディフェンスの原則であり、一つのルールなので、相手がスペースを埋めにきて当然と言えるでしょう。

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このシーンはガブリエル シャビエルがパスを出して抜けていくシーンです。サッカーにはいくつかの決まり事があり、その中に、人が元々いた場所には必ずスペースが生まれるという決まり事があります。その決まり事どおり、このシーンではガブリエル シャビエルが元々いた場所にはスペースが生まれ、新たなパスコースが生まれました。

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実は、このシーンではもういくつか注目するところがあります。それは相手の重心とスペース、それから相手選手との距離です。まずはその内の、相手の重心から見ていきます。2枚目の画像で説明したシーンを振り返ってみてください。相手選手の中央で受けて視線を集めることで中央に大きなスペースが生まれたというシーンです。あのタイミングでスペースを中央に空けたことがこのシーンで初めてその威力を発揮することになります。あれだけのスペースが中央に空いてしまうと、ミドルシュートor裏へのスルーパスが狙われるということもあり、警戒度はかなり増しているはずです。そうなると、相手の重心はよりボールへと向きやすくなっているというのがこの状況です。

 

次はガブリエル シャビエルの動きと相手SBの動きに注目してください。相手SBは恐らく、CB-SBのライン間でガブリエル シャビエルに受けられることを警戒したのだと思います。そのため、急いで重心移動を開始し、スペースを埋めようとしているのが伝わってきます。ただ、そのスペースを埋めることと引き換えに相手SBはSHとの距離を空けることにもなります。

 

そして、最後に見てほしいのが左サイドにできたスペースです。このスペースがなぜ生まれたかというと、実は先ほど説明した新たなパスコースが生まれるという要素と同時に相手を押し込むという要素が含まれているんです。その結果生まれたのがこの左サイドのスペースというわけです。

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そして、これが最終的に左サイドからクロスを入れるシーンです。動画の一番はじめのシーンと比較してみてください。相手SBとの距離は開き、左サイドにはかなり自由なスペースができているのがわかります。こうなればSH和泉 竜司は自由にクロスを入れることが可能でしょう。実際に、このタイミングでかなり質の高いクロスを入れることに成功しています。左サイドのスペースを意図的に空けたのはこのためです。

 

このタイミングでガブリエル シャビエルが相手の前に入ったというのも重要です。相手の前に入ったことで、ガブリエル シャビエルが足元で受ける可能性が出てくる。そうなれば、クロスを入れられるとわかっていても、足元で受けられてターンからのドリブルというパターンを考えたときに、相手選手たちはロビン シモビッチをいくら警戒していても、人数をかけるという決断ができなくなります。 その結果、ロビン シモビッチは背負った状態で相手選手と1vs1の状況が生まれ、胸トラップからのボレーができたというわけです。

意図的に配置された選手たち

これは実際に 風間八宏監督に聞いてみないとわからないのですが、恐らく、予めデザインされた攻撃ではないかと思います。中央にロビン シモビッチ、ハーフスペースで相手に二択を与えるためのガブリエル シャビエル。そして、ガブリエル シャビエルがハーフスペースでアクションを起こすことで生まれるサイドのスペースを利用。

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図で説明すれば、こんなイメージがあったのだと思います。ガブリエル シャビエルを相手選手の間に配置し、相手がハーフスペースを意識してスペースを消せば、大きく空いたサイドからのクロス。もし相手が意識しなければハーフスペースにいるガブリエル シャビエルからの仕掛けという二択を与える。そして、中央にいるロビン シモビッチは相手のライン間でも背後でもなく、相手の前に入ることでシモビッチの体格を活かし、ポストプレーorシュートという二択を与えてあげる。そうすることでロビン シモビッチのプレーの幅を広げ、ゴール前でのバリエーションを増やすという意図があったはずです。

まとめ

今回、この記事で解説した、名古屋グランパスのゴールは個人的にはかなり素晴らしいゴールだと思っています。特徴的な個性を持ったロビン シモビッチを活かすための配置。そして、それを可能にした選手それぞれの配置とスペースの使い方。意図があって本当に素晴らしい攻撃でした。

 

僕がこの記事で初めに言った、質的優位の話は覚えていますか?今回のこの名古屋のシーンはかなりわかりやすい例だったと思います。サッカーではこの質的優位の概念は絶対に欠かせないと僕は思っています。サッカーはチェスや将棋とよく比較されることがありますが、サッカーには一つだけ決定的な違いがあります。それが質的優位の部分です。チェスや将棋ではスタートの配置は駒それぞれの質によって予め決められていますが、サッカーでは、そのスタートの配置すらも自ら決めることができるんです。これがどういうことかというと、相手の短所にいきなり自分たちの長所をぶつけることが可能だということです。だとしたら、その手段を選ばないわけにはいきませんよね?相手も自分と同じように配置を選ぶことができるわけですから。

 

ポジショナルプレーの話になると、なぜか位置的優位性と数的優位性の話にフォーカスされがちですが、ポジショナルプレーの根本的な概念は全てで3つ(位置的優位性,数的優位性,質的優位性)あるということを忘れないでほしいです。

 

では、また。。。。。